東京都教育委員会は、平成29年12月に提出された「東京都立高等学校入学者選抜英語検査改善検討委員会報告書」を踏まえた上で、都立高等学校入学者選抜における英語の「話すこと」の技能の評価等に係る具体的内容について検討するために「英語『話すこと』の評価に関する検討委員会」を設置することを決定しました。
 これは平成30年4月から12月までのあいだに3回程度の検討委員会を開催して、そこで平成30年度内に各事項についての協議を進め、平成31年度以降の実施を目指すというものです。
 日本の英語教育には以前から問題点が指摘されてきましたが、ついに具体的な方針を持って動いたという見方がされています。

▼目次

1. 「東京都立高等学校入学者選抜英語検査改善検討委員会報告書」の内容

ここでは、都立高等学校入学者選抜英語検査において英語の「話すこと」を含めた技能で評価するべきとされています。学生の学習成果を評価するためには「聞くこと」「話すこと」「読むこと」「書くこと」の4技能の評価が必要とされてきましたが、実際に英語検査では「読むこと」「書くこと」が重視され、リスニングテストという形で「聞くこと」までが実施されています。「話すこと」の検査を実施するためには、その検査に関わる採点者と公平な評価をするための採点時間が確保できないと考えられています。そのために「話すこと」の検査を導入するにあたっては、民間の資格・検定試験実施団体との連携が有効とされています。

2020年度からセンター試験が共通テストに代わり、そこで行われる英語の学力検査に関しても大きな変更が決定されています。この場合も民間の英語資格・検定を行っている団体と連携し、その資格を入試に利用できるというようになっているのです。今回の高等学校入試に関してもそういった意向が見えます。

2. 検討委員会設置までの経緯

日本の英語教育の問題点に関しては数十年前から指摘する声がありました。日本では中学、高校と第一外国語として英語を学習しています。学生によっては大学に入っても学習する状況でしたが、実際に社会人になった日本人はほとんどの人が流暢に英語を話すことができません。これは諸外国を見てもかなり珍しいことです。他の国では6年間も語学を学習すれば日常会話くらいは普通にこなせるレベルにはなります。ではなぜ日本人はそれほどの学習時間にも関わらず、会話ができないのか。それは日本の英語教育が「読むこと」「書くこと」に特化しており、英文法を理屈で理解しようとしているからだとされてきました。これは進学する際にある英語の試験のための「受験英語」として評価されてきたのです。その声が識者の中からも高まっていくなかで、東京都教育委員会では平成25年6月に「東京都英語教育戦略会議」を設置して、さらなるグローバル社会に対応するためにはどうすればよいかということについて検討を重ねていきました。

その中で平成28年6月~7月にかけて中学3年生約6万人に対して英語に関する4技能について調査を行いました。「話すこと」については2万人に対して調査した結果中学3年生の約70%が「話すこと」について課題があるということが判明しました。

そして平成28年9月に提出された「東京都英語教育戦略会議報告書」では、都立高校の入試において英語検査で「話すこと」を含めた4技能を評価するための実施方法や工夫について前向きに検討すべきであるとされました。その検討結果を受けて平成29年7月に「検討委員会」が設置されて協議が重ねられたのです。

この結果を受けて、高校入試での英語検査は義務教育の最終段階としての英語科学習指導要領で求められている4技能がしっかりと身についているかどうかを測ることができるとし、小学校から英語教育を取り入れている東京都では小中高と一貫した英語教育を行うことで英語4技能をさらに向上させることができる効果が期待されています。

また、高校入試に「話すこと」が加わることによって現在中学校で行われている英語の授業の改良、改善が図れるものとし、教員が授業をさらにより良いものにしていくことも期待できるとされています。

3. 今後予想される動き

先に発表されている大学入学共通テストでの英語検査の変更や、今回の東京都教育委員会の発表によって、この動きが日本中に広がっていくのは時間の問題とされています。すでに自治体によっては独自に英語教育のやり方を変更してきているところも多く、「聞くこと」「話すこと」の重視、ネイティブスピーカー講師の導入など次々と新しい手法が考えられています。この動きが加速していけば、「受験英語」で実際には使いものにならないと言われてきた日本の英語教育が一気にグローバル化していくと予想されています。実用に耐えうる英語、実際に会話できる英語教育が実現していくのかもしれません。